かな条幅の書道筆

書道
投稿日:2020年1月21日
かな条幅の書道筆

少しでも分かりやすく書道の道具や情報をお届けしようとド素人が小説風にブログを書いて8回目になります。
今回は、かな条幅用の筆のエピソードストーリーです。

かな条幅用といっても、いろんな長さや毛の配合の筆があります。
今回、私が大阪教材社の店内でお客様におすすめをする筆は、羊毛とイタチ毛の兼毫筆です。
この筆にはどんな特徴があり、どんな線が得られるのか、私を含めた登場人物2人の会話を通して解説したいと思います。

  1. かな条幅用の筆について
  2. かな条幅筆のカタチ
  3. かな条幅の兼毫筆をすすめる
  4. かな条幅の兼毫筆、その特徴

書道短編小説 かな条幅筆篇

かな条幅用の筆について

年が明けて、最初の月曜日の朝、開店するなり女性が駆け込んできた。
大阪府堺市内にある数カ所の幼稚園や公民館で書道を教えておられる山口先生だ。
かな書道をメインにされている先生で、今日はかな条幅用の筆を求めて来店されたようだ。

元々「かな」の書道は、ほとんどが巻物などに仕立てられていたので、小さく書く文字だった。
けれど、戦後かな書道を取り巻く環境が変化する。
かな作品が展覧会を目的として制作されるようになってからは、漢字作品に匹敵するほど作品が大きくなったのだ。

そのような環境変化から、「かな条幅」用という大きな作品に対応したかな筆の需要が高まる。
筆メーカーさんもその要望に対応して、かな条幅筆が多種製造されるようになったのだ。

かな条幅筆のカタチ

かな文字は、文字を大きくする場合、線を太くしすぎると、しまりがなく見えてしまうことがある。

だから、かな条幅筆は、穂はあまり太くない、そして長い。
細長いカタチをした穂先の筆となる。

そんなカタチだから、字の線も太くならず、息の長い線を書くことが出来るのが特徴だ。

さて、山口先生におすすめするかな条幅選びだ。
先生は、私がおすすめした筆や紙は、ほとんどその場で買ってくださる。
それだけ信用していただいているということなので、毎回緊張感をもって道具選びをすることになる。
先生とのやり取りの連続が自分にとってどれだけ勉強になっていることか。

山口先生の作品を想像しながら、かな条幅の筆を1本ピックアップした。
振り返ると、弊社の女性スタッフとの世間話が盛り上がって、筆の棚を背にしてすっかり話しこんでしまっている。

「ちょっと筆選びに時間がかかりすぎたかな。」
話しのコシを折らないように、別の作業をしながら聞き耳を立てながら話しかけるタイミングをうかがっていると、スタッフとかな条幅の筆の話しになった。
ここぞとばかりに、脇に置いていたおすすめの筆を先生に差し出した。

「先生、このかな筆はどうですか?」

かな条幅の兼毫筆をすすめる

私が用意したのは、羊毛とイタチ毛の兼毫筆。
このかな筆は、内側が羊毛でそのまわりをイタチ毛で覆っている。

書道筆に使用する毛の種類には、それぞれ特徴がある。

かな条幅の兼毫筆、その特徴

この筆の場合は、「墨含みに優れるけれど、柔らかすぎて扱いにくい羊毛」と「しっかりした毛質で書きやすい反面、柔らかさが不足したイタチ毛」の2種類を混ぜて使用した筆だ。

この筆は、それぞれの特徴を補完するために、意図的にこのような配合にしている。
2つの毛質の特徴をうまく引き出した良筆だ。

山口先生はその筆の穂先を見つめながら、

「結構コシがありますね。」

「そうなんですよ。コシが強くて弾力があるので、運筆も軽快です。
直筆で書けば、ズバッと鋭く強い線が出ますし、
側筆気味で書けば、線に膨らみが出て、かすれが出やすくなります。
スーッと軽快な連綿で、線に変化があるかな作品を書けると思いますよ。」

説明しながら、つい手もオーバーアクションで動かしてしまう癖がある。
今も説明しながら、空中にかなを書くジェスチャーをしている自分に気づいて、そっと手を下ろす。
つい手振りが大きくなったり、擬音語が多くなってしまうのは、大阪人の特徴なのだといつかテレビの番組で聞いたことがある。

「墨含みも良さそうですね。」

「はい、おっしゃる通り穂が長い分、墨含みが良いんです。
墨をよく吸う画仙紙に書いても、墨継ぎなしでかなりの文字数を書くことが出来ると思います。」

「じゃ、とりあえず試しに1本もらいますね。」

「ありがとうございます。使っていただいたら、また感想を聞かせてください。」

いつものように筆専用の紙袋に入れてお渡しする。
毎年、大阪教材社では、年始営業の店舗販売に、ちょっとしたサプライズを用意している。
年始営業日の数日間は、ささやかなお年賀をご購入商品に添えるようにしているのだ。

お年賀を一緒にお渡ししたとき、少し驚いた後に笑顔で喜んでもらえるのが嬉しい。
そんなお客さんの顔を見るのも、自分にとって年始の楽しみのひとつになっている。

今回も私たちの思惑通りに驚いてくれた山口先生の顔を見て、新しい年を迎えた実感が沸いてきた。


今回の書道ストーリー、かな条幅筆のお話しは以上です。

かな筆に限らず、書道作品や求める線を出すにはそれに対応できる筆があります。
今回のように条幅のかなに適した筆を選ぶことで、趣きのある美しい線を出すことが出来るので、ぜひ専門店に相談してみてください。

書道ショートストーリー 第1回目 プロローグ
書道ショートストーリー 第2回目 羊毛の穂先短い書道筆 
書道ショートストーリー 第3回目 おすすめの筆ペン
書道ショートストーリー 第4回目 淡墨の作り方
書道ショートストーリー 第5回目 落款印(雅号印)をオーダーする
書道ショートストーリー 第6回目 針切の臨書に適した小筆
書道ショートストーリー 第7回目 細光鋒の長い羊毛書道筆
書道ショートストーリー 第8回目 かな条幅の書道筆
書道ショートストーリー 第9回目 仮巻表装を依頼する
書道ショートストーリー 第10回目 額装された書道作品
書道ショートストーリー 第11回目 書道筆の洗い方
書道ショートストーリー 第12回目 半紙等の保存方法
書道ショートストーリー 第13回目 書道料紙を選ぶポイント
書道ショートストーリー 第14回目 色紙を書道用に使う
書道ショートストーリー 第15回目 竹筆の使い方 書道特殊筆 
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