額装された書道作品

書道
投稿日:2020年1月30日
書道作品の額装

書道専門店のエピソードストーリー、今回は第10回目です。

今回は書道作品を額装希望でこられたお客様のエピソード。
額装を希望されるお客様の想いと私たちがどのような額装を提案したのか。

  1. 亡き妻の書道作品を額装する
  2. どのような額装にするか
  3. 書道用額装の3タイプの形
  4. 額装の詳細を決める
  5. 額装、その仕上がりは

登場する額装:
女桑角型額装 フリータイプ 写経

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書道短編小説 額装篇

亡き妻の書道作品を額装する

「実は最近、妻がなくなりましてね。」

モスグリーンのローバーミニでお店まで来てくださった古田さんは、そう言って、キャラメル色のレザーバッグの中から封筒を取り出した。

その茶封筒は、上下2箇所の留め具に紐をグルグル巻いて留められる厚手のもので、紐でしっかりと封がされている。

頑丈に保管されているのをみると、余程大切なものが入っているのだろう。

茶封筒から出てきたその紙は、筆と墨で書かれた手書きの般若心経。

「遺品を整理していたら、妻が生前よく書いていた般若心経が出てきたんです。
これを額装してもらうことは出来ますか?」

比較的最近に書かれたであろうその般若心経は、やや生成り色の楮紙。

罫線は、微妙に手ぶれしたような味わいのある線が引かれており、その中に整然と般若心経が書かれている。

ご自分で線を引いて、紙も自らカットされたのだろう。般若心経の定番サイズではなさそうだ。

かなり手間をかけて書き上げた般若心経のように見える。

「出来れば常に見える場所に、これを飾っておきたいんです。」

哀しみをたたえた優しい目で私を一瞥すると、その紙をそっと手渡した。

今のご主人にとって、この般若心経は、奥様そのものなのかもしれない。

額装は、奥様を連想出来るような仕立てにしよう、そのとき思った。

どのような額装にするか

「マットの色のご希望はございますか?」

「どうやって選んだらいいのか分からなくて。」

と言って、ご主人は自分の手元に目を落とした。

「大丈夫ですよ。一緒に選んでいきましょう。額装を飾る壁は、何色ですか?」

通常、額装する際は、飾る壁の色を参考にマットの色を決めることが多い。

「白色の珪藻土です。」

見た目の印象や会話の内容から、少しずつお客さんのライフスタイルや好みが分かってきた。

「奥様は何色がお好きでしたか?

例えば、よく着る服の色とか。」

普段はあまり聞かない質問だが、今回は亡き奥様のお好みに寄り添う大切な質問になる。

「服装は、白色や薄い茶色が多かったですが。」

「なるほど。それでは額装も奥様がお好きな服装のように色を合わせていきましょう。

マットは白色で、枠は木目がわかるナチュラルな塗装のフリータイプでいかがでしょうか?」

そう言ってイメージが掲載されたファイルをお見せする。

ご主人は、決断するのに多少困惑の表情を浮かべたものの、了承してくださった。

額装や軸装をしたことがない方は、この時点でもどうすればよいのか半信半疑という人が多い。

書道用額装の3タイプの形

書道額縁には、大きく分けて3種類の型がある。

最も一般的でマットに直接作品を貼るフリータイプ。

浮かし下駄という台を作品裏の中心につけることで、作品が浮いたように見える浮かし型。

作品が額縁の中に沈んだ型の落とし型。

今回の場合は、奥様の作品をシンプルでありながら、引き立つ額装がよいと考え、浮かしたり、落としたりの装飾を廃し、ベーシックなフリータイプを提案してみた。

額装の詳細を決める

白色のマットに生成り色の作品。

白色に薄い茶色の服装を好んで着ておられた奥様の面影を追いつつも、このままでは額装として、色合いにメリハリが足りず、ベタっとした印象になってしまう。そこで作品を引き立たせるために、作品のまわりにフクリンを追加することにした。

フクリンとは、作品をぐるりと色付きのテープで取り囲む留め方のこと。

薄いグレーの副林を作品の四辺に配置することで、シンプルでありながらも作品が映える額装になる。

ナチュラル系の服装を好んで着ておられた奥様は、おそらく白色にグレーを合わせた服装もされていただろうと思ったからだ。

額装、その仕上がりは

10日後、額装が仕上がった。

通常、2週間は時間をいただいているが、1日でも早くご主人の手元に奥様をお返ししたかったから、職人に事情を説明して協力してもらったのだ。

繁忙期から外れていたことも、早く仕上げる上で都合がよかった。

ご主人に連絡すると、その日のうちに取りに来てくださった。

口には出されなかったが、1日でも早くと待っておられたのだろう

額装を覆っているダンボールの上下箱を両手でそっと開けると、裏打されてピンとシワののびた綺麗な般若心経が現れた。
薄いグレーのフクリンが書道作品を程よく引き立てている。
珪藻土の白い壁にもマッチする額装に仕上がった。

しばらく無言で作品を見つめて二度、三度と深くうなずいてから、つぶやいた。

「ここに妻がいるようです。般若心経を一生懸命書いてた姿を思い出すなあ。」

それほど口数の多いご主人ではないけれど、心から喜んでいただいていると感じ、ホッとした。

額装の中で、手書きの般若心経からは、奥様の息づかいを感じる。
これからも額装の中で、般若心経の1文字1文字は生き続けるのだ。

死ぬということは、永遠に生きるということでもあるのかもしれない。

出来上がった額装作品をご主人と眺めながら、そんなことを考えていた。

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女桑角型額装 フリータイプ 半切
女桑角型額装 フリータイプ 全紙

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