第17回目の書道専門店のエピソードストーリーは、書道墨の保存方法と割れたときの対処法です。
書道墨は、普段どのように保存されていますか?
墨の保管状態が悪いと、墨の特性が損なわれたり、割れたりすることがあります。
高価な墨や人からいただいた墨であれば、特に気をつけたいですよね。
今回は、書道墨の保存方法と割れたときの対処法について、書道短編小説を通して解説させていただきます。
書道短編小説 書道墨の保存方法・割れたときの対処法篇
書道墨が割れたとき
私は、滋賀県草津市の駅前マンションで一人暮らしをしている。
会社員になって、今年で12年、JRの新快速で50分ほど電車に揺られて梅田まで出勤している。
付き合ってもうすぐ1年になる彼がいるが、具体的に将来のことを考えても話し合ってもいない。
平日は終日仕事におわれてクタクタだけれど、週末は趣味に没頭する時間をつくっている。
小学校からマイペースで続けている書道だ。
今日は展覧会の出品まで時間がないため、平日の深夜に疲れた体を引きずりながら、画仙紙に向きあおうとしていた。
明日は土曜日で会社も休みだ。
早起きしなくてもよい安堵感が、書道に向かうモチベーションにつながっているのだろう。
いつものように墨を手にとって、硯で墨を磨ろうとした瞬間、
右手に持った墨をよく見ると、墨が割れている。
どうしよう、固形墨はこの1丁しか持っていないのに。
墨割れのおかげで、高まっていたやる気に水を差されてしまった。
ちょっとしたパニック状態で、どうするべきか思考停止の状態になっている。
墨が割れたまま磨ることも出来そうだが、
なんとか割れた墨を直す対処法は、ないだろうか。
少し思案して、あたりを見回すと、傍らに置いていたiphoneが目にとまった。
ふと右手に墨を持ったままだったことに気づいて、ひび割れた墨を墨床にそっと置いた。
目線を再びスマホの画面に戻し、グーグルのアプリから「墨 割れ
「書道墨の保存方法と割れたときの対処法」というタイトルだった。
そのリンクをタップしてみると、
ちょうど探していた内容の記事を発見し、思わずまえのめりになって、その記事を読み始めた。
書道墨の保存で、してはいけない2つのこと
湿気は、書道用具にとって大敵です。
墨も同様で、保管する際は湿気を避けるような保存方法を心掛けてください。
書道墨を使うにあたって、避けるべきことがあります。
1.墨を使用後、墨の先が墨液で湿った状態のままで放置する
この状態を放置すると、乾いたときに墨の帯になります。
墨を磨る度にこのような状態を繰り返すと、
そこからヒビ割れが発生し、その割れが広がると、
墨を磨った後は、すぐに拭き取るようにしてください。
書き損じた半紙や画仙紙で拭くのが最適です。
ティッシュは、墨を拭くには不向きです。柔らかすぎて、墨に付着することがあるからです。
2.墨を磨った後、墨を硯の上にのせたままにする
使用後の墨を硯の上にのせたままにすると、
墨には、膠(にかわ)が含まれています。
無理に外そうとすれば、硯を傷つけてしまいます。
墨を使用した後は、拭いていない状態で硯の上に置かないでください。
墨の濡れた箇所を速やかに拭いて、専用の箱に入れるか、墨床に置くなどしてください。
書道墨の正しい保存方法
書道墨を保存するには、桐箱に入れるのが最適です。
桐箱には、湿気を防ぐ性質が備わっているからです。
湿気があるときは、木の目が膨張して外気の湿気が侵入しません。
空気が乾燥しているときは、乾いた空気が、箱の中に入り込み、
桐箱に入れることで、虫喰いの防止にもなります。
10円玉を入れておくのも一定の効果があります。
10円の銅が、カビの発生をおさえてくれます。
ヒビ割れやすい墨とヒビ割れにくい墨
和墨(日本製の墨)よりも唐墨(中国製の墨)の方がヒビ割れやす
唐墨の方が膠の含有量が多いため、より湿気と乾燥に反応しやすい特徴があります。
日本の気候になじみにくいこともあると思います。
和墨は、製造工程で充分な乾燥を経て出荷されますので、
書道墨の補修方法
奈良の老舗墨メーカー墨運堂が製造している「墨用ボンド スミノセイ」が便利です。
書道専門店であれば、墨用ボンドを販売していますので、確認してください。
墨用ボンドの本体をつまむと、白い液体が出てきますので、
重ねたときに、はみ出すボンドは拭き取ります。乾燥すると、白い液体は透明になります。
接着できた墨は、
記事を読み終えて、割れた唐墨「黄山松煙」をじっと見た。
墨用ボンドの持ち合わせはない。
今の優先事項は、墨割れではなく、書道作品の制作だ。
とりあえず、今日は割れた墨を使うことをやめにした。
幸いなことに明日は土曜日で、会社は休みだ。
休日を利用して、墨用ボンドを買いに行くことにしよう。
気持ちを切り替えて、書道作品の制作に取り掛かる。
書道道具の保存棚から、愛用している墨運堂の墨液「和同」を取り出してキャップを開ける。
和同の特徴である墨の深い香りが部屋に広がり、心が静寂で満たされていくのを感じる。
墨液を墨池に流し込み、右手で筆を持つ。
筆の穂先を墨液に沈めると、灰色の線の束が漆黒に染まっていく。
穂先の墨量を墨池の端で調整しながら、目線を画仙紙に移す。
視界が徐々に狭くなり、外側がぼやけて薄暗くなる。
真ん中に見据えた画仙紙だけが、大きく、
起筆から次に連なる線が光になって、
自分の頭上で、もう1人の自分が俯瞰して眺めているように感じる。
これがゾーンという状態か。
超集中状態に入っていく自分を感じながら、墨液を含んだ筆先の黒が、
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