調和体作品の書き方 7つのポイント
調和体は、漢字仮名交じり文とも呼ばれていますが、近代詩文ともいわれていました。
私たち日本人が日常で使っています日本語ですから、親近感が持たれるのは当然ではないでしょうか。
誰にも読めて内容が理解できる調和体という分野は、現在日本の書道界において、とても重要な位置付けになっているのはいうまでもありません。
漢字作品は素人では読みにくく、内容を理解するのも容易ではありませんが、調和体は誰にでも読めて親しめるのも人気の理由です。
調和体/近代詩文書作品の表現について
具体的に調和体の表現について、7つのポイントを解説させていただきます。
1.漢字と仮名をどのように調和すればよいのか
漢字は点画を省略したり、点画を密着させないで書くことによって、ある程度仮名の明るさに近づけることが出来ます。
仮名は、線に強さや重みを持たせれば、漢字の強さに近づきます。
仮名の成立から考えると、草書からの造形理念を仮名造形にも生かして漢字に近づけます。
2.行草体における造形の3原則
- 不平行 縦、横、斜めが平行に並ばない。これは見た目に堅くなるのを防ぐためです。
- 不等分割 空間のバランスを等しくしない。文字の中心が左右のどちらかに寄る。
- 不等辺 下の文字につなげるため、それぞれの辺の長さが等しくならないようにする。
文字の配置に変化をつけて、全体のバランスを保つようにします。
上げたり下げたり、行と行を離したり、近づけたりすることでおのずと変化がうまれ、余白のいかし方も身に付きます。
3.作品効果を上げる
漢字は点画を少し省略したり、点画を密着させないようにして、明るさを表現します。
漢字と仮名が交じる場合、仮名を少し小さく書きます。
仮名が連続する場合も、大小をつけて変化を出しつつ、流れをつくります。
仮名も漢字同様に線に突き、ねじれ、ひっかかりを入れ節をつけて、漢字との調和を表現します。
4.線の太さを変える
線は、書道具(墨・紙・筆)の使い方、筆の傾き・運筆の速度・筆圧・筆の開閉を駆使し、線の表現にいかします。
太い線
重量感を表現します。単に筆を紙に押さえつける書き方ではなく、筆を押し出すように、毛開き、肉太の線になることが大切です。
細い線
軽快・軽妙といった表現になります。これも筆を軽く押さえるだけでなく、筆の穂先を紙にひっかけるように、押し出すように書きます。筆の毛はそれなりに開くようにし、細い線に活力を与えます。
作品の中に太い線と細い線を組み合わせて、全体として動きのあるバランスのとれた作品表現を目指します。
多字数の場合は、文字の画数によって、太さの工夫をします。
画数の多い文字は細めに、画数の少ない文字は太めにし、全体のバランスをとるのが一般的です。
5.紙の色を変えて書いてみる
調和体用の書道用紙というものはありません。
中国の紙・日本の紙・素材の違いなど書き比べてみると、新たな作品の方向性を見出せるかもしれません。
6.墨の使い方を工夫する
墨は黒々としたものばかり使えば、作品が一様に見えてしまいますが、淡墨を取り入れることで作品の見え方を変えることが出来ます。
淡墨は、作品が淡白でやわらかく、おだやかになります。
紙に深く浸透し、柔らかな情感になります。
反対に濃墨を使うと、黒と白の対比が鮮やかになり作品に強烈な力が加えられます。
青墨や茶墨などで墨色の変化を狙うのも効果的ですし、添加墨も作風の変化に寄与します。
筆にニカワ液を含ませて、その筆の一端に墨を少量つけて書くと、濃淡が入り混じって面白い線が出ます。
粘度の高い濃墨で、潤渇の変化を加えると、カスレた部分とにじんだ部分がうまれ、作品に遠近感がうまれます。
7.多種の筆を使い分ける
詩文によって、様々な表現が必要なため、必然的にいろんな種類の筆が必要になります。
調和体・近代詩文書に向いている主な筆は以下の通りです。
羊毛短鋒
素朴で暖かな作品に向いています。
羊毛長鋒
調和体・近代詩文書で最も使われている筆です。羊毛はよいものになると、細く柔らかで弾力があり、暖かで粘りのある線がえられます。
力強い線から繊細な作品まで様々な表現に対応できる筆です。
羊毛超長鋒
柔らかで弾力があり、毛が長いので、繊細な線に適しています。
長い毛の筆は、意外性のある線を出せるのが魅力ですが、上級者向きです。
剛毛筆
馬・鹿・狸・山馬など硬い毛質の筆。
引き締まった線がえられます。そのまま書けば一定の線になるので、変化を求める場合は、意識的に筆圧や運筆の速度を変える必要があります。
特殊筆
竹筆・鶏毛・孔雀・リス・マングースなど
通常の筆ではえられない面白い線が特徴です。
調和体/近代詩文書の表現で参考になる古典
素朴でおおらかな表現
のびのびとするためになるべく軽い筆圧で、やわらかい毛質の筆がよいでしょう。
鄭羲下碑・石門銘・開通褒斜道刻石
秋萩帖など
迫力のある表現
紙が破れるほどの筆圧で、筆を斜めに入れてから、直角におこして逆筆か直筆で紙を切るような運筆を心がけます。
始平公造像記・張遷碑・木簡・爨宝子碑・天発神讖碑
十五番歌合・藍紙万葉集など
繊細な表現
筆の角度は側筆で、筆圧はあまりかけず、速くリズミカルに書きます。
雁塔聖教序・枯樹賦・蘭亭叙・貫名菘翁の左繍叙
関戸古今集・針切・小島切・本阿弥切・寸松庵色紙など
まだまだ多様な書表現が可能な調和体は、今後書が生き残れるための重要分野であることは間違いないと思います。
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